はじめに:その「本音レビュー」、企業が金を払って作らせている
TikTokやInstagramを開くと、こんな動画が流れてくる。
普通の人が自宅で、スマホで撮ったような動画で、「この商品本当に良かった」などとスキンケア商品、ガジェット、食料品などを使ってみせる。完璧な照明も、プロのような編集もない。まるで友達が勧めてくるような、リアルな雰囲気の商品紹介動画。あなたも一度は見たことがあるのではないだろうか?
多くの人は、これを「一般ユーザーの自発的な口コミ」だと思って見ている。だが、その多くは案件だ。企業がお金を払い、クリエイターに動画を作ってもらっている。
それらの動画を作っているのは、有名人でも、何百万人ものフォロワーを持つインフルエンサーでもない。フォロワーがほとんどいない普通の個人だ。彼らは「UGCクリエイター」と呼ばれ、企業から報酬を受け取って、企業が広告に使うための「リアルな」コンテンツを制作している。
アメリカでは、これがすでに一つの職業として確立している。Forbes JAPANによれば、2025年に企業がUGCに費やす額は76億ドル (約1兆2,150億円) を超えるとされ、ブランドの56%が2024年にUGCへの投資を倍増させたという。さらにクリエイターエコノミーは急速に成長しており、ゴールドマン・サックスは、2027年までに4800憶ドルに達すると予測している。しかし日本ではこの職業が、まだほとんど根付いていない。
今回のテーマは、この「スマホ1台で始められる、企業の広告制作」という個人向けのビジネスだ。これは大企業や有名人のものではない。フォロワーゼロの個人でも始められる仕事だ。UGCクリエイターとは何か、なぜ企業が求めるのか、どう稼ぐのか、日本でも出来るのかなどを解説する。
UGCとは何か:2つの言葉を区別する
この仕事を理解するには、言葉の定義を整理する必要がある。「UGC」という言葉はしばしば、2つの異なるの意味で使われる。
本来のUGC
UGCは「User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)」の略だ。もともとは、企業ではなく一般人が自発的に作ったコンテンツを指す。Amazonのレビューやお気に入りのレストランをタグ付けしたSNS投稿など、案件ではなく無料で、自発的に生まれるものだった。
UGCクリエイター(今回のテーマ)
ところが近年、これが有料の仕事になった。企業がクリエイターを雇い、広告に使うための「本物らしく感じられるコンテンツ」を制作させる(Forbes JAPAN)。見た目は一般ユーザーの投稿と変わらない。だが実際は、企業からの依頼を受け、報酬をもらって作られた広告素材だ。作られたコンテンツの使用権は企業に渡り、企業がそれを自社の広告として配信する。海外では多くの有名な企業がUGCを活用してマーケティングを行っている。そのコンテンツ制作を請け負う個人がUGCクリエイターだ。
インフルエンサーとの決定的な違い
UGCクリエイターは、インフルエンサーとよく混同される。だが両者は根本的に異なる。
インフルエンサーは、「自分のフォロワーに向けて」商品を紹介する。企業が支払うのは、その人の「影響力(リーチ)」に対してだ。そのため基本的に、フォロワーが多いほど、報酬は高くなる。コンテンツはその人のアカウントに投稿される。
一方、UGCクリエイターは違う。基本的に作った動画は企業に渡し、企業が自社の広告として使う。企業が支払うのは、フォロワー数ではなく「コンテンツそのものと、その使用権」に対してだ。
この違いが意味することは、UGCクリエイターにはフォロワーが要らない、ということだ。
Forbes JAPANも指摘するように、UGCクリエイターとして仕事を得るために何百万ものフォロワーは必要ない。これは、参入のハードルを劇的に下げる。何年もかけて何万人ものフォロワーを集める必要がない。必要なのは、フォロワー数ではなく、「リアルで魅力的なコンテンツを作る力」だけだ。
なぜ企業はUGCを求めるのか
企業がこぞってUGCにお金を払う理由は、主に下の3つだ。
理由1:作り込んだ広告より、リアルな方が効く
現代の消費者、特にSNSの利用者は、いかにも「広告」というコンテンツに反応しなくなっている。プロが撮った完璧な映像、完璧なセールストークは作りものとして警戒される。一方、普通の人がスマホで撮ったようなリアルな動画は、友達の勧めのように信頼され、購買につながりやすい。
理由2:費用対効果が高い
プロのスタジオ、カメラマン、照明を使った広告制作には、多額の費用がかかる。UGCを利用することでその何分の一かのコストで、効果のあるコンテンツを作ることができる。Forbes JAPANによれば、UGCは平均して投資1ドルあたり4ドルのリターンを企業にもたらすとされる。
理由3:大量の「テスト素材」が必要
現代のSNS広告戦略は、複数のパターンを同時に出して、どれが最も反応が良いかを検証する。そのため、企業は少数の完璧な広告ではなく、大量のバリエーションを必要とする。一つのブランドが月に何十本もUGCを発注することも珍しくない。この量への需要が、UGCクリエイターへの継続的な仕事を生んでいる。
どう稼ぐのか:収益の構造
UGCクリエイターの収益は、いくつかの層で構成される。具体的な金額は、経験・ジャンル・使用権の範囲などによって大きく変わるため、あくまで目安として捉えてほしい。
基本:1本あたりの制作料
動画1本いくらという定額が基本だ。クリエイターの経験値や実績も大きく影響するが、基本的に「5〜10本の動画(主にモックアップ)のポートフォリオを持つ初心者は、動画1本あたり75〜200ドル、または一貫した仕事(月に約10本の動画)で月に750〜2000ドルを稼ぐ。」とされている。 (Forbes JAPAN)
UGCクリエイターの収入額についてはクリエイターを集めたいプラットフォーム側が公表しているものも多くあり、実際の相場とは異なる可能性があることに注意が必要だ。
上乗せ:使用権(ライセンス)
コンテンツ制作料とは別に、「そのコンテンツを広告としてどこまで使っていいか」に応じた使用権料が上乗せされる。有料広告として配信する、長期間使う、といった条件で、基本料金に上乗せされるのが一般的だ。使用権の業界相場を少し知っているだけで、企業との交渉を有利に進めることが出来るだろう。
安定:定額契約
最も重要なのがこれだ。単発の仕事を追いかけ続けるのは消耗する。海外で成功しているクリエイターは、「月に〇本で月額いくら」という継続契約を獲得している。一つのブランドと継続的に組めば、収入が安定し、同じ商材に慣れることで制作も速くなる。
Forbes JAPANも、月に1万ドル以上を稼ぐクリエイターは、この仕事を楽しい副業ではなく、真っ当なビジネスとして構築していると指摘している。成功しているクリエイターは、仕事を見つけるため営業を行い、指標を追い、契約を交渉し、使用権を理解し、ブランドとの継続的な関係から収入を生んでいる。稼げる人と稼げない人を分けるのは、才能よりもこの事業としての運営方法だ。
日本でのUGC
では、日本ではどうなっているのか。
結論から言うと、欧米型の「UGCクリエイター」という職業は、日本ではまだ確立の初期段階にある。UGCクリエイターという職業の認知自体がまだ薄い。
その一方で、需要の芽は確実に育っている。日本にも、UGC動画広告の制作を代行する企業が現れている。コンセプト設計からクリエイターの選定、撮影、量産までを一括して請け負い、クリエイターが自宅でスマホで撮影し、その使用権を企業に譲渡するというような包括的なサービスを提供する企業もある。求人サイトを見ても、「UGC風動画の制作」といった募集が増えている。
欧米との大きな違いは、日本では、クリエイターの多くが「制作会社・代理店を介した」形で動いているという点だ。企業と個人クリエイターの間に、代理店が入る。間に代理店が入ることで当然クリエイターの取り分は少なくなるため、欧米のように、個人クリエイターとして直接ブランドと取引し、専門職として独立して活動できればさらに多くを稼ぐことが出来る。
また、日本ではUGC黎明期ゆえの現実もある。日本で活動しているあるUGCクリエイターは、「無償17件こなして気づいた、UGCクリエイターのリアル」という記事を出している。つまり、日本ではまだ、実績作りのために無償で数多くの案件をこなす段階にいる人が少なくない。有料の仕事として成熟した市場がまだできあがっていないということだ。しかしこれは裏を返せば、先行者としての参入機会を意味する。欧米で証明されたこの職業を、日本で個人として、専門的に、事業として確立できる余地は残っている。
日本で始めるなら点:機会と注意点
機会1:日本語と英語、両方の市場に出せる
UGCクリエイターの仕事は、オンラインで完結する。撮影は自宅、納品はデータ。つまり、日本のブランド向けに日本語のコンテンツを作ることも、海外のブランド向けに英語のコンテンツを作ることも、日本に参入したい海外のブランド向けに日本語のコンテンツを作ることも、全て同じ場所からできる。日本の未成熟な市場だけに頼らず、すでに巨大な欧米市場のブランドから直接仕事を受けられる。欧米市場に挑戦することを怖がる必要はない。日本人として欧米クリエイターとは異なる独特な視点を、UGCを通して提供できることは大きな武器になる。日本市場では先行者として、海外市場では独特な視点を持ち込む者として、2つの市場で活躍出来ることは大きなアドバンテージだ。
機会2:海外の「型」を日本に持ち込める
欧米では、UGCクリエイターの仕事の進め方―ポートフォリオの作り方、ブランドへの売り込み方、使用権の設定、定額契約への移行などの方法がすでに体系化されている。この海外で蓄積されたメソッドを学び、まだ手探りの日本市場に持ち込むことができる。これはThe Business Outpostのコンセプトそのものだ。
注意点1:これは手を動かす仕事だ
UGCクリエイターは、動画を1本1本、自分で作る。企画し、台本を書き、撮影し、編集する。誰かに丸投げして自分は寝ているだけ、という受動的な収入ではない。売れるコンテンツを作る力そのものが商品であり、その力は一朝一夕には身につかない。最初の3秒で視聴者を引き込む動画構成や購買につなげる訴求など、様々な点で地道な学習と改善が求められる。
注意点2:日本市場はまだ低単価が多い
前述の通り、日本ではまだ市場が未成熟で、実績作りのために無償や低単価で数多くの案件をこなさなければならない可能性がある。日本国内だけで最初から高収入を期待するのは現実的でない。だからこそ、成熟した海外市場にアクセスできることが大きな意味を持つ。
注意点3:単価データの多くは盛られている
この分野の収入データは、クリエイターを集めたいプラットフォームや、情報商材的なサイトが発信しているものが多く、金額が誇張されがちだ。「UGCで月〇万ドル」という数字を鵜呑みにするべきではない。稼げる人はいるが、全員がそうなるわけではない。
注意点4:AIという新しい競争
近年、AIでUGC風の動画を生成するツールが登場し始めている。低予算のテスト用途では、AIが人間のクリエイターと競合し始めている。ただし、信頼が重視されるカテゴリーでは、依然として本物の人間が作るコンテンツが好まれる。AIに代替されにくい、人間らしさと本物の説得力をどう表現するかが今後の鍵になるだろう。
総合評価
UGCクリエイターは、The Business Outpostが個人読者に勧めるビジネスとして、優れた条件を備えている。
何より、参入のハードルが極めて低い。必要なのはスマホと編集アプリだけだ。フォロワーも、大きな初期資本も、特別な資格も要らない。そしてこのビジネスは大企業や有名人のものではなく、フォロワーゼロの個人が、自宅から、自分の力だけで始められる。オンラインで完結するため、バイリンガルであれば日本と海外の両市場で戦える。
一方で、これは自分が手を動かす仕事であり、売れるコンテンツを作る力を磨く地道な努力が要る。日本市場はまだ未成熟で、最初は無償や低単価の時期を覚悟する必要もあるだろう。単価の誇張された情報にも惑わされてはいけない。そしてAIという新しい競争も始まっている。
だが、欧米で76億ドル規模に育ったこの職業が、日本ではまだ代理店を介した形にとどまり、独立した専門職としての存在感が薄い。個人が先行者として参入する機会は大いにある。海外の確立されたメソッドを学ぶことで、日本でUGCクリエイターとして成功する確率を高めることが出来る。
実際に始めるなら
1. ニッチを一つ決める
美容、フィットネス、ガジェット、SaaS、食品など、自分が語れる・興味を持てる分野を一つ選ぶ。特定ジャンルに強いクリエイターの方が、ブランドから選ばれやすく単価も上がる。
2. ポートフォリオを作る(実案件がなくても)
自分が既に持っている、お気に入りの商品を使って、サンプル動画を数本作る。開封、使ってみた、ビフォーアフターなど。実案件がなくても、高品質な動画を作れることを示す作品集が最初の武器になる。
3. 撮影・編集の基本を固める
必要なのはスマホと編集アプリ(CapCut等)だけ。最初の3秒で視聴者を引き込む動画構成、購買につなげる訴求を意識する。高い機材やプロレベルの編集より、リアルさと分かりやすさが効果的だ。
4. 直接売り込みと、プラットフォーム登録を併用する
「あなたの製品でこんな動画を作りました。広告に使いませんか」と、狙ったブランドに直接売り込む。同時に、UGCクリエイター向けのプラットフォームにも登録する。UGC案件が探せるプラットフォームについての詳しい情報はForbes JAPANの「コンテンツクリエイター必見!UGC案件を獲得できる9つのプラットフォーム」を参照してほしい。
5. 使用権と契約を理解する
請求額を分かりやすく細かく分けて提示する。この契約リテラシーが、素人とプロを分ける。請求書には、基本動画制作料、使用権、独占条件、納品スピードオプションなどの追加料金を別々の項目として表示する。企業が何に対して、どれくらい支払っているのかを明朗に伝える。
6. 単発から継続へ、そして海外へ
単発の実績を積んだら、継続契約を提案して収入を安定させる。日本市場で経験を積みつつ、英語で海外ブランドにもアプローチし、成熟した市場での高い単価を狙う。
まとめ
あなたがSNSで見かける「リアルな口コミ動画」の多くは、企業がお金を払って個人に作らせた広告だ。
作っているのは、有名人でも、フォロワーの多いインフルエンサーでもない。スマホ1台を持った、普通の個人だ。
アメリカでは、このUGCクリエイターが76億ドル規模の職業に育っている。フォロワーは要らない。必要なのは、リアルで説得力のあるコンテンツを作る力だけだ
日本では、UGCは個人でも参入可能な職業としては、確立の初期段階にある。代理店を介した形が主流で、独立した専門職の層は薄い。だからこそ、個人に機会がある。欧米で証明された型を学び、日本で先行者になり、英語で世界の市場にアクセスすることも可能だ。スマホ1台から始められて、大手が代替できない、個人のための仕事。それがUGCクリエイターだ。
出典・参考資料
Forbes JAPAN「UGCクリエイターとして収益化する7つの簡単ステップ」
https://forbesjapan.com/articles/detail/82127
Forbes JAPAN「コンテンツクリエイター必見!UGC案件を獲得できる9つのプラットフォーム」
https://forbesjapan.com/articles/detail/83600
Indeed Japan「UGC広告/UGCクリエイター 求人」
https://jp.indeed.com/jobs?q=ugc&l=&from=searchOnDesktopSerp&vjk=dcf030ba850929ae
note「無償17件こなして気づいた、UGCクリエイターのリアル」
https://note.com/ugc_creator_mil/n/ncc4fb8f1f15b
